SS書庫
151〜200
151:幕間・警戒体制(全2話)
第一話
「通達」
セントラルシティ。
アークス司令室。
大型モニターには、
防衛戦の最終解析結果が表示されていた。
クロフォード
「来てくれてありがとう。」
「今日は、防衛戦について解析が一段落したから、その結果を共有したくて二人を呼んだんだ。」
ルクレティア
「こちらこそ、お招きありがとうございます。」
アオロビ
「よろしくお願いします。」
クロフォードは柔らかく笑う。
「安心してほしい。」
「事情を聞くためじゃない。」
「今後に向けて、一緒に状況を整理しておきたいんだ。」
ルクレティア
「分かりました。」
ランがモニターを操作する。
ラン
「解析結果を表示します!」
戦況図が映し出される。
リューリン
「戦闘ログ解析終了。」
「結論。」
「スターレスの攻撃対象はGleam Garden全体ではありません。」
画面中央。
赤いラインが一直線に伸びる。
終点。
『T.E.R.A.S.』
ロッサ
「途中の建物はほとんど無視だ。」
「邪魔だから壊しただけって感じだな。」
オランジェ
「過去の襲撃記録とも似ていますねぇ。」
「目的地が決まっている時の動きと一致していましたぁ。」
クロフォード
「僕たちも同じ結論になった。」
「狙われたのはT.E.R.A.S.だ。」
静かな空気が流れる。
クロフォード
「ここからは解析結果と、僕たちの考察になる。」
「T.E.R.A.S.はTeam Magを基盤にした独自開発AI。」
「記録し、学び、共感し、支える。」
「そういう存在だと解析している。」
アオロビ
「はい。」
クロフォード
「正直に言うと。」
「アークスにも、この設計思想は存在しない。」
ルクレティア
「でしょうね。」
「私達も最初から、アークスのAIを作ろうと思っていた訳ではありませんから。」
リューリン
「解析結果一致。」
「フォトンを兵器利用している形跡なし。」
「フォトン情報を蓄積、解析、学習するAI。」
ラン
「だからスターレスは……。」
クロフォード
「未知の存在として認識した可能性が高い。」
司令室が静かになる。
クロフォードは二人を見る。
「でも。」
「これは誰かを責める話じゃない。」
「君たちが悪い訳でもない。」
「未知の技術だから狙われた。」
「現時点では、それが一番自然な答えだと思っている。」
ルクレティア
「……私も同じ考えです。」
アオロビ
「ルクさん?」
ルクレティア
「未知というものは、興味を持たれるか、脅威と見なされるか。」
「今回は後者だった。」
クロフォード
「僕もそう思う。」
クロフォードは資料を閉じた。
「だから、一つお願いがある。」
「今まで以上にT.E.R.A.S.の警戒を強めてほしい。」
「今回だけで終わる保証は、残念ながらない。」
ルクレティア
「もちろんです。」
「私達も、そのつもりでした。」
アオロビ
「一つ聞いてもいいですか?」
クロフォード
「もちろん。」
アオロビ
「T.E.R.A.S.をアークスで保護するとか、そういう話にはならなかったんですか?」
ラン達もクロフォードを見る。
クロフォードはすぐに首を横へ振った。
「ならない。」
「僕たちは、T.E.R.A.S.をアークスで管理しようとは考えていない。」
「……あれは。」
「君たちが時間をかけて育ててきたAIだ。」
「守る権利も、管理する権利も君たちにある。」
「それを僕たちが預かる理由はないよ。」
ルクレティアは静かに頭を下げた。
「ありがとうございます。」
クロフォード
「その代わり。」
「支援は惜しまない。」
「必要ならいつでも相談してほしい。」
「僕たちは、そのためにいる。」
アオロビ
「はい。」
「ありがとうございます。」
クロフォードは穏やかに笑った。
「それじゃ、今日の報告はここまで。」
「……これからも。」
「Gleam Gardenをよろしく頼む。」
司令室を後にする二人。
扉が静かに閉まる。
ラン
「やっぱり、素敵な人達ですね。」
ロッサ
「ああ。」
「だから守りたくなるんだろうな。」
オランジェ
「また遊びに行きたいですねぇ。」
リューリン
「平和が続くことを願います。」
クロフォードは窓の外を見つめ、小さく笑った。
「僕もそう思う。」
「あの庭園には、笑顔が似合うからね。」
第二話
「いつもの帰り道」
セントラルシティを後にし、転送ゲートへ向かう二人。
司令室での緊張感とは対照的に、歩く足取りは穏やかだった。
アオロビ
「……思ってたより重い話だったね。」
ルクレティア
「そう?」
「私は予想通りだったわ。」
アオロビ
「ルクさんはそうだろうと思ってた?」
ルクレティア
「ええ。」
「T.E.R.A.S.を完成させた時から、いつか誰かの目には留まると思っていたもの。」
アオロビ
「敵じゃなくても?」
ルクレティア
「ええ。」
「未知のものは、興味を持たれるか、警戒されるかのどちらかよ。」
「今回は少し相手が悪かったわね。」
アオロビは苦笑する。
「スターレスだもんね。」
少し沈黙が流れる。
アオロビ
「でも。」
「クロフォードさんが、あそこまで言ってくれたのは嬉しかった。」
ルクレティア
「そうね。」
「アークスへ管理を移す話にならなかっただけでも十分よ。」
アオロビ
「信用してもらえてるんだね。」
ルクレティア
「信用は、一日では作れないものだから。」
「今まで積み重ねてきた結果ね。」
転送ゲートへ到着する。
光に包まれながら、二人は庭園へ戻った。
Gleam Garden。
夕焼けに染まる花々。
いつもの景色。
アオロビ
「……帰ってきた。」
ルクレティア
「やっぱり落ち着くわね。」
Team Magが静かに浮かび、その隣へ淡い光が集まる。
ホログラムがゆっくりと形になる。
T.E.R.A.S.
「お帰りなさい。」
ルクレティア
「ただいま。」
アオロビ
「何か変わったことは?」
T.E.R.A.S.
「庭園内に異常はありません。」
「防衛設備も正常に稼働しています。」
ルクレティア
「良かった。」
アオロビは少し考える。
「警戒は強めないとね。」
ルクレティア
「ええ。」
「でも。」
「慌てる必要はないわ。」
「備えは少しずつ。」
「私達らしく。」
アオロビ
「……専用装備も、その一つだね。」
ルクレティアは小さく笑う。
「そう。」
「急いで全員分作る必要はないわ。」
「一人ずつ。」
「その人に一番合う形を探しながら。」
アオロビ
「Project BLOOM。」
ルクレティア
「ようやく始められるわね。」
アオロビは庭園の奥へ視線を向ける。
「地下格納庫も見ておかないと。」
ルクレティア
「あっ。」
「忘れてた。」
アオロビ
「Blue Signalも、しばらく動かしてない。」
ルクレティア
「Blue Signalだけじゃないわ。」
「格納している機体は全部。」
「動かさなくても定期点検は必要だから。」
アオロビ
「しばらく整備の日が続きそう。」
ルクレティア
「その方が平和ってことよ。」
二人は顔を見合わせて笑う。
その時。
T.E.R.A.S.
「ルクレティアさん。」
「アオロビさん。」
二人が振り返る。
ルクレティア
「どうしたの?」
T.E.R.A.S.
「本日、一件ご相談があります。」
アオロビ
「相談?」
T.E.R.A.S.
「芸能事務所より、ぴたぽんさん宛に出演オファーが届いております。」
ルクレティア
「……出演?」
T.E.R.A.S.
「はい。」
「知育番組のレギュラー出演についてのご相談です。」
一瞬、静まり返る。
アオロビ
「……。」
ルクレティア
「……ふふっ。」
思わず笑みがこぼれる。
アオロビ
「ぴたさんらしいね。」
ルクレティア
「ええ。」
「まずは本人に聞いてみましょう。」
T.E.R.A.S.
「承知しました。」
夕暮れの庭園には、再び穏やかな空気が流れていた。
戦いの緊張は終わり、
Gleam Gardenは、またいつもの日常へ戻っていく。
――第二章、開幕。
152:夏野菜を育てよう!(全2話)
第一話
「みんなで家庭菜園!」
初夏。
Gleam Garden庭園。
朝日を浴びた花々が優しく揺れ、穏やかな風が庭園を吹き抜ける。
ガゼボでは、いつものように紅茶を楽しむメンバー達の姿があった。
ちょこみんと
「う~ん!」
「今日も平和だぁ~!」
アオロビ
「こういう日が続くといいね。」
ローシャ
「戦いの後だからこそ、この静かな時間がより大切に感じますね。」
ルクレティア
「ええ。」
「これが私達の日常だもの。」
その時。
Nikeが庭園の空いている一角を眺めながら、小さく微笑んだ。
Nike
「皆さん。」
「一つ提案があるのですが。」
ちょこみんと
「おっ?」
「ニケちゃんの提案だ!」
みんなの視線が集まる。
Nike
「せっかく、これだけ広い庭園があります。」
「今年の夏は……」
「家庭菜園を始めてみませんか?」
一瞬静まり返る。
そして。
ちょこみんと
「やりたーーい!!」
ぴたぽん
「畑ぽん!」
「楽しそうもじゃ!」
みるく
「採れたてのお野菜……美味しそうですね。」
チノ
「私も育ててみたいです。」
La lune bleue .
「アンジェリカも喜びそうにゃん♪」
アンジェリカ
「おやさい?」
「そだてるー!」
元気よく両手を上げる。
思わず全員が笑顔になった。
ルクレティア
「満場一致ね。」
アオロビ
「何を植える?」
Nike
「夏野菜なら色々ありますよ。」
「例えば……」
「トマト。」
「きゅうり。」
「ナス。」
「ピーマン。」
「オクラ。」
「枝豆。」
「どれも夏らしい野菜ですね。」
ローシャ
「彩りも綺麗ですね。」
ティラミス
「料理の幅も広がる。」
ちょこみんと
「全部植えよう!」
アオロビ
「全部?」
ちょこみんと
「だって楽しそうじゃん!」
ルクレティア
「ふふ。」
「却下する理由がないわ。」
それからすぐに作業開始。
Nikeが軍手を配る。
Nike
「まずは土作りからですね。」
「植物は土が一番大切なんです。」
アオロビ
「まず土を整えるんだ。」
Nike
「はい。」
「元気な野菜は、元気な土から育ちます。」
ルクレティア
「何事も基礎が大切ということね。」
Nike
「その通りです。」
ちょこみんとは鍬を持ち上げる。
「よーし!」
「いっくよーー!!」
勢いよく振り下ろす。
ガッ!
硬い地面。
「かたっ!」
ローシャ
「最初はそうなりますよね。」
アオロビ
「少しずつ耕していこう。」
ぴたぽん
「よいしょお♪」
チノ
「このくらいでしょうか。」
みるく
「少しずつ柔らかくなってきましたね。」
みんなで協力すると、少しずつ畑らしい土になっていく。
Nikeはその様子を優しく見守っていた。
「皆さん、とても上手です。」
「焦らなくても大丈夫。」
「植物は急かさなくても育ってくれます。」
アンジェリカは小さなスコップを持ち、一生懸命土を掘っていた。
「あっ!」
「できた!」
La lune bleue .
「上手にゃあ♪」
アンジェリカは嬉しそうに笑う。
そこへ、淡い光が庭園中央から現れる。
T.E.R.A.S.
「皆さん。」
「本日の天候をご案内します。」
「気温二十六度。」
「降水確率〇パーセント。」
「家庭菜園日和です。」
ちょこみんと
「おぉー!」
「さすがテラスちゃん!」
T.E.R.A.S.
「ありがとうございます。」
「土壌の乾燥速度から考えると、本日は夕方にも水やりを行うと理想的です。」
Nike
「助かります。」
「気温や天気は、とても大切ですから。」
やがて土作りが終わる。
目の前には、綺麗に耕された畑。
ちょこみんと
「できたーー!!」
ぴたぽん
「畑完成ぽーん!」
アンジェリカ
「はたけー!」
嬉しそうに畑の周りを走り回る。
ルクレティアはその光景を静かに見つめて微笑んだ。
「こういう時間が、一番幸せね。」
アオロビ
「うん。」
「次はいよいよ苗植えだね。」
Nike
「はい。」
「皆さんで、一緒に育てていきましょう。」
初夏の優しい風が吹き抜ける。
戦いを乗り越えた庭園には、また新しい命を育てる時間が流れ始めていた。
第二話
「収穫祭!」
それから数週間。
Gleam Garden庭園。
初夏はいつしか盛夏となり、庭園の一角に作られた畑には、色鮮やかな夏野菜が実っていた。
赤く色付いたトマト。
立派なきゅうり。
つややかなナス。
鮮やかなピーマン。
オクラ。
枝豆。
朝日を浴びて元気に育っている。
アンジェリカ
「わぁー!」
「いっぱいー!」
小さな手をぱたぱたさせながら畑の周りを駆け回る。
La lune bleue .
「こんなに大きく育ったにゃあ。」
Nike
「皆さんで大切に育てましたからね。」
「野菜達も応えてくれました。」
ちょこみんと
「収穫だーー!!」
アオロビ
「今日は収穫祭だね。」
ルクレティア
「まずは収穫の仕方から教えてもらいましょう。」
Nike
「はい。」
「無理に引っ張ると傷付いてしまう野菜もあります。」
「優しく収穫してあげましょう。」
アンジェリカ
「やさしく!」
Nike
「そうですよ。」
「植物も生きていますから。」
アンジェリカは真剣な表情で何度も頷いた。
まずはトマト。
Nike
「手で優しく持って……。」
「少しひねるだけです。」
アンジェリカ
「うーん……。」
ころん。
真っ赤なトマトが手の中へ。
アンジェリカ
「とれたー!」
ちょこみんと
「やったーー!」
全員から拍手が起こる。
アンジェリカは少し照れながらも、とても嬉しそうだった。
アオロビはきゅうりを収穫する。
アオロビ
「思ったより大きい。」
ローシャ
「立派ですね。」
ティラミス
「綺麗。」
チノ
「こちらのナスも収穫できそうです。」
みるく
「枝豆もたくさんですね。」
ぴたぽん
「今日はごちそうぽん♪」
ルクレティア
「しばらく野菜には困らなさそうね。」
一時間ほどで収穫終了。
テーブルいっぱいに並ぶ夏野菜。
ちょこみんと
「すごーーい!」
「全部自分達で育てたんだ!」
ローシャ
「こうして並ぶと達成感がありますね。」
Nike
「皆さん、本当にお疲れ様でした。」
「ここからが最後のお楽しみです。」
ちょこみんと
「料理!」
Nike
「はい。」
「採れたては、一番美味しいですから。」
キッチン。
アオロビは野菜を切る。
チノも隣で手伝う。
ローシャはサラダを盛り付ける。
みるくはスープを担当。
ぴたぽんは枝豆を茹でる。
ちょこみんとはカレーを混ぜながら鼻歌を歌っている。
ルクレティア
「ちょこちゃん。」
「味見は一回までよ。」
ちょこみんと
「えへへ。」
「バレた!」
全員が笑う。
やがて料理が完成した。
夏野菜カレー。
採れたてサラダ。
焼きナス。
枝豆。
オクラの和え物。
テーブルいっぱいに料理が並ぶ。
アンジェリカ
「いただきまーす!」
みんなも声を揃える。
「いただきます。」
アンジェリカはトマトを一口。
「おいしいー!」
La lune bleue .
「よかったにゃあ。」
Nike
「自分で育てた野菜は、少し特別に感じますよね。」
アオロビ
「うん。」
「手をかけた分だけ、美味しく感じる。」
ローシャ
「料理も作品作りも似ていますね。」
ティラミス
「育てる時間も作品。」
ルクレティア
「焦らず、大切に育てる。」
「それが一番なのかもしれないわね。」
食事も終わり。
夕暮れ。
畑を眺めながら、みんなで並んで座る。
アンジェリカ
「またつくる!」
Nike
「もちろんです。」
「季節が変われば、また違う野菜も育てられますよ。」
アンジェリカ
「ほんと!」
Nike
「はい。」
「今度は秋野菜にも挑戦してみましょう。」
ちょこみんと
「やったー!」
アオロビ
「楽しみがまた増えたね。」
ルクレティア
「戦うだけじゃない。」
「こうして育てる時間も、Gleam Gardenらしさね。」
夕日に照らされた畑には、収穫を終えた土が静かに広がっていた。
次の季節へ向けて。
また新しい命を育てる準備をしながら。
153:『GG-N05 Samothrace』
(全5話)
第一話「地下格納庫」
Gleam Garden 庭園 地下第5格納庫。
普段は関係者以外立ち入り禁止となっている巨大格納庫。
薄暗い空間に、照明だけが一機の巨大な白い機体を照らしていた。
その機体の翼は天使のように大きく広がり、静かに佇んでいる。
GG-N05
Samothrace。
格納庫の入口が静かに開いた。
nike
「……急に呼ばれたけど。」
「ここって地下格納庫……?」
「何かあったのかな。」
中へ入ると、既にアオロビが待っていた。
アオロビ
「あ、ニケさん。」
「来てくれてありがとう。」
nike
「アオさん。」
「急に呼ばれたから少し驚いたよ。」
「何かあった?」
アオロビは小さく頷く。
アオロビ
「うん。」
「今日はニケさんに見てもらいたいものがある。」
その瞬間。
格納庫の照明がさらに点灯した。
巨大な白い翼がゆっくりと姿を現す。
nike
「…………。」
思わず言葉が止まる。
目の前には、人の何倍もの大きさを持つ白い機体。
黄金の装飾。
巨大な翼。
両腕には長大なライフル。
まるで神話の彫像がそのまま兵器になったような存在感だった。
nike
「……これ。」
「私たちの機体?」
アオロビ
「ううん。」
「私たちのじゃない。」
「ニケさん専用。」
nike
「……え?」
理解が追いつかない。
自分の名前が出るとは思ってもいなかった。
アオロビ
「紹介するね。」
「GG-N05。」
「Samothrace。」
「今日から、この機体はニケさんの専用機になる。」
nike
「…………。」
「えぇぇぇぇっ!?」
格納庫中に声が響いた。
あまりの衝撃に、その場で一歩後ずさる。
nike
「ちょ、ちょっと待って!」
「私!?」
「専用機!?」
「そんな話、一回も聞いてないんだけど!?」
アオロビ
「うん。」
「だから今日呼んだ。」
「サプライズ。」
nike
「サプライズで済む話じゃないよ!?」
思わず頭を抱えるニケ。
その横でアオロビは苦笑した。
アオロビ
「安心して。」
「これは一番最初の機体じゃない。」
「みんなには、もうそれぞれ専用機がある。」
アオロビは格納庫の壁面モニターを操作する。
そこには歴代の機体一覧が映し出された。
Blue Signal。
Golden Parade。
Dolce Funeral。
Queen of the Night。
Moon Fang。
Silent Thorn。
Soft Margin。
Stillness。
Azure Crown。
そして、その中央だけ空いていた最後の一枠。
そこへ映し出される。
GG-N05 Samothrace。
アオロビ
「最後まで空いていた場所。」
「そこが、ニケさんの席。」
nike
「…………。」
「私だけ、後から?」
アオロビ
「うん。」
「ニケさんは一番最後にGleam Gardenへ来た仲間だから。」
「だから専用機も最後になった。」
静かな言葉。
けれど、その意味は重かった。
"ようやく、全員分が揃った。"
そんな想いが、その一言に込められていた。
nikeはもう一度巨大な機体を見上げる。
翼は静かに閉じたまま。
まるで新しい主を待ち続けていたように。
第二話「最後の一機」
巨大な白い機体を見上げたまま、nikeはまだ言葉を失っていた。
nike
「……私専用って言われても。」
「正直、まだ実感がないよ。」
アオロビ
「それが普通だと思う。」
「いきなり見せられたら誰でもそうなるから。」
アオロビはホログラムを操作する。
格納庫中央に、Gleam Gardenの全機体一覧が映し出された。
Blue Signal。
Golden Parade。
Dolce Funeral。
Queen of the Night。
Moon Fang。
Silent Thorn。
Soft Margin。
Stillness。
Azure Crown。
そして最後に。
Samothrace。
nike
「……みんな、もう持ってたんだ。」
アオロビ
「うん。」
「それぞれの役割に合わせて設計してある。」
「狙撃。」
「前衛。」
「支援。」
「隠密。」
「分析。」
「防衛。」
「全部、その人専用。」
nike
「じゃあ……。」
「私は最後?」
アオロビ
「最後。」
「ニケさんがGleam Gardenへ来てから、時間はまだそんなに経ってない。」
「だから専用機の開発も最後になった。」
nikeは少し申し訳なさそうに笑う。
nike
「私のためだけに、みんなを待たせちゃった感じ?」
アオロビ
「違うよ。」
「待ってたんじゃない。」
「待ってたのは"答え"。」
nike
「答え?」
アオロビ
「ニケさんが、どう戦う人なのか。」
「それが分からなかった。」
nike
「……。」
アオロビ
「近距離なのか。」
「中距離なのか。」
「遠距離なのか。」
「味方を支えるのか。」
「先頭へ出るのか。」
「全部、まだ決められなかった。」
nike
「だから、この機体?」
アオロビ
「うん。」
「サモトラケは完成形じゃない。」
「完成へ向かうための実験機。」
nike
「実験機……。」
アオロビ
「機体性能を試すためじゃない。」
「ニケさんの戦い方を知るため。」
「そのために造った。」
nikeは再び巨大な白い翼を見上げる。
完成しているように見えたその機体は、実はまだ成長途中。
誰かに合わせるためではなく。
自分自身の戦い方を見つけるための機体だった。
nike
「……そんな機体が、本当にあるんだ。」
アオロビ
「ある。」
「だから、この機体だけは特別。」
「他のみんなとは、少し違う。」
静かな格納庫に、サモトラケの白い翼だけが静かに輝いていた。
第三話「六十八日」
nike
「でも……。」
「一つだけ分からないことがある。」
アオロビ
「うん?」
nike
「この機体。」
「他のみんなと何が違うの?」
アオロビは少しだけ笑った。
アオロビ
「一番大きな違いは一つ。」
「T.E.R.A.S.。」
nike
「……え?」
アオロビ
「この機体だけ。」
「T.E.R.A.S.が搭載されてる。」
nike
「私だけ?」
アオロビ
「うん。」
「他のみんなの機体には積んでない。」
nike
「どうして?」
アオロビは巨大な機体を見上げた。
白い翼は静かに格納されたまま眠っている。
アオロビ
「理由は簡単。」
「みんなの戦い方は、もう完成してるから。」
「誰が前に出るか。」
「誰が援護するか。」
「どう動くか。」
「何年も一緒だったから、もう分かってる。」
nike
「……。」
アオロビ
「でも。」
「ニケさんだけは違う。」
「まだ誰にも分からない。」
「近距離を選ぶのか。」
「射撃を選ぶのか。」
「状況で全部変えるのか。」
「私でも予測できない。」
nike
「だから……。」
アオロビ
「だからT.E.R.A.S.。」
「全部記録する。」
「全部分析する。」
「全部覚える。」
「サモトラケは、その記録を元に成長していく。」
nike
「私と一緒に?」
アオロビ
「うん。」
「この機体は、ニケさんと一緒に完成する。」
nikeはしばらく機体を見つめていた。
自分の癖。
迷い。
判断。
その全部を受け止め、一緒に成長していく機体。
そんな発想は聞いたことがなかった。
nike
「……誰が考えたの?」
アオロビ
「ルクさん。」
nike
「やっぱり。」
アオロビは苦笑する。
アオロビ
「設計。」
「OS。」
「制御。」
「T.E.R.A.S.との接続。」
「安全装置。」
「全部。」
「ルクさん。」
nike
「…………。」
アオロビ
「完成するまで。」
「六十八日。」
「ほとんど寝てない。」
nike
「え。」
「六十八日?」
アオロビ
「途中で少し気絶してたくらい。」
「本人は『寝てない』って言い張ってたけど。」
nikeは思わず苦笑する。
nike
「それ、もう寝てるよ……。」
アオロビ
「うん。」
「だから。」
「完成した瞬間。」
「そのまま倒れた。」
二人は同時に格納庫の奥を見る。
そこには巨大なコンテナの陰。
毛布だけ掛けられ、完全に力尽きて眠るルクレティアの姿があった。
規則正しい寝息だけが静かに聞こえている。
nike
「…………。」
「起こさなくていいの?」
アオロビ
「無理。」
「今起こしたら、多分怒る前にまた寝る。」
nikeは思わず笑ってしまった。
巨大な新型機の完成。
その裏には、一人の仲間が六十八日積み上げ続けた時間があった。
サモトラケは、その努力そのものだった。
第四話
「託すもの」
静かな地下格納庫。
毛布に包まったルクレティアが、小さく寝返りを打った。
ルクレティア
「……ん。」
アオロビ
「あ。」
「起きた。」
ゆっくり目を開けたルクレティアは、ぼんやりと二人の姿を見つめる。
そして、巨大な白い機体を見上げると、小さく微笑んだ。
ルクレティア
「……ちゃんと見てもらえたみたいね。」
アオロビ
「うん。」
「説明も終わった。」
ルクレティア
「そう。」
「それなら安心だわ。」
nike
「ルクさん……。」
ルクレティア
「ごめんなさいね。」
「迎えるつもりだったのだけれど……。」
「最後の確認が終わったら、そのまま眠ってしまったみたい。」
nike
「それは仕方ないですよ。」
「六十八日も格納庫に籠もっていたって聞きました。」
ルクレティアは困ったように笑う。
ルクレティア
「少し夢中になり過ぎたわね。」
「でも、この子だけは妥協したくなかったの。」
そう言ってサモトラケへ優しく視線を向ける。
しばらく静かな時間が流れた。
ルクレティア
「GG-N05 サモトラケ。」
「今日からあなたの機体よ。」
nike
「……はい。」
ルクレティア
「でもね。」
「一つだけ覚えておいてほしいことがあるの。」
nike
「はい。」
ルクレティア
「私は機体しか造れないの。」
「装甲も。」
「翼も。」
「OSも。」
「全部造ることは出来るわ。」
「でも。」
「あなたの戦い方だけは、私には造れないの。」
nike
「……。」
ルクレティア
「だから、この子はあなたと一緒に完成していく機体。」
「焦る必要はないわ。」
「あなたが思うままに飛んで。」
「あなたが思うままに戦って。」
「その先に、この子だけの答えが見つかるはずだから。」
nikeは静かにサモトラケを見上げた。
白い翼は静かに閉じられたまま、新しい主を待っている。
nike
「私に……出来るでしょうか。」
ルクレティア
「出来るかどうかじゃないの。」
「一緒に探していくのよ。」
「そのために、この子は生まれてきたんだから。」
nike
「……はい。」
ルクレティア
「それから。」
「T.E.R.A.S.も、あなたに預けるわ。」
「私の代わりに見守ってくれる、大切な家族だから。」
nike
「大切にします。」
「サモトラケも。」
「T.E.R.A.S.も。」
ルクレティアは満足そうに頷いた。
ルクレティア
「その言葉が聞ければ十分よ。」
「安心して眠れるわ。」
そう言うと、そのまま再び毛布へ潜り込む。
アオロビ
「やっぱり寝るんだ。」
ルクレティア
「……おやすみなさい。」
数秒後。
静かな寝息が格納庫へ響き始めた。
nikeは思わず笑う。
nike
「本当に眠っちゃいました。」
アオロビ
「今回は許してあげて。」
「六十八日分だから。」
二人は顔を見合わせ、小さく笑った。
静かな地下格納庫。
そこには、新しい翼を託された一人と、その翼を造り上げた設計者の穏やかな時間が流れていた。
第五話
「最初の一歩」
翌朝。
地下格納庫。
静かな朝日が格納庫入口から差し込み、白い翼を淡く照らしていた。
ルクレティアは昨夜とは違い、整備用チェアへ座りながらコーヒーを飲んでいる。
その表情には、ようやく疲労が少しだけ抜けた様子が見えた。
アオロビ
「おはよう。」
ルクレティア
「おはよう。」
「昨日は少し寝過ぎたわ。」
アオロビ
「少しじゃないけどね。」
ルクレティアは小さく笑う。
その時、格納庫の扉が開いた。
nike
「おはようございます。」
ルクレティア
「おはよう、ニケちゃん。」
nike
「昨日は、その……。」
「ちゃんとお礼を言えなかったので。」
そう言って深く頭を下げる。
nike
「ありがとうございました。」
「私のために、こんな素敵な機体を造ってくださって。」
ルクレティアは首を横に振った。
ルクレティア
「お礼を言うのはまだ早いわ。」
「これから、この子と一緒に歩いていくのだから。」
nike
「……はい。」
ルクレティア
「だから。」
「最初の一歩だけ踏み出しましょう。」
nikeは静かに頷く。
サモトラケの胸部装甲がゆっくり開き、コックピットハッチが展開された。
ルクレティア
「どうぞ。」
「あなたの席よ。」
nikeは一歩、また一歩と近付く。
巨大な機体を前にすると、自然と背筋が伸びた。
コックピットへ乗り込む。
静かにシートへ腰を下ろすと、正面モニターが淡く点灯した。
『BOOT SEQUENCE』
『SYSTEM CHECK』
『ENERGY NORMAL』
『T.E.R.A.S. LINK』
淡い光がコックピット全体へ広がる。
そして聞き慣れた優しい声が響いた。
T.E.R.A.S.
「おはようございます、Nikeさん。」
nike
「テラスさん。」
T.E.R.A.S.
「GG-N05 Samothrace。」
「パイロット認証を開始します。」
「認証完了。」
「ようこそ、Samothraceへ。」
nikeは自然と微笑んだ。
nike
「よろしくね。」
「今日から一緒に頑張ろう。」
T.E.R.A.S.
「はい。」
「これからもサポートいたします。」
格納庫の外では、アオロビとルクレティアが静かにモニターを見守っていた。
アオロビ
「どう?」
ルクレティア
「相性は問題ないわね。」
「予想通り。」
アオロビ
「うん。」
「サモトラケも嬉しそう。」
ルクレティア
「ふふ。」
「そう見えるでしょう?」
「この子は今日から、ようやく完成へ向かって歩き始めたの。」
モニターには、正常稼働を示す緑色の表示が並ぶ。
異常なし。
同期率100%。
T.E.R.A.S.接続正常。
すべての項目が静かに点灯していた。
ルクレティア
「ニケちゃん。」
通信が開く。
nike
「はい。」
ルクレティア
「無理に答えを探さなくていいわ。」
「あなたらしく飛んで。」
「あなたらしく帰ってきて。」
「それだけで十分よ。」
nike
「はい。」
「必ず帰ってきます。」
ルクレティアは満足そうに微笑む。
アオロビも静かに頷いた。
巨大な白い翼はゆっくりと展開し、朝の光を受けて静かに輝く。
GG-N05 Samothrace。
最後の仲間へ託された、新たな翼。
その最初の一歩が、静かに刻まれた。